高ストレス者が面談を拒否したらどうする? ― 産業医面談 拒否時の正しい対応と再アプローチ

高ストレス者が面談を拒否したらどうする? ― 産業医面談 拒否時の正しい対応と再アプローチ

高ストレス者が面談を拒否したらどうする? ― 産業医面談 拒否時の正しい対応と再アプローチ

はじめに

ストレスチェックの結果、高ストレス判定が出た従業員の 7 ~ 8 割は自ら産業医面談を申し出ません。「面談を勧められて当然」と思っているのは人事側だけで、本人にとっては「会社にメンタル不調を知られる」「評価に響く」という不安が先に立ちます。

本記事では、高ストレス者が産業医面談を拒否(または無反応)したときの正しい対応を、法的位置づけ・声かけの組み立て方・記録の残し方まで実務目線で整理します。


1. 法律上の前提を正しく理解する

1.1 申出は「本人の意思」

労働安全衛生法第 66 条の 10 では、高ストレス判定者への産業医面談は 「労働者が申し出た場合に実施する」 と定められています。つまり:

  • 会社が面談を強制することはできない
  • 申出をしないことを理由に不利益取扱いをすることも禁止
  • 一方で、会社は 「面談を申し出るよう勧奨する義務」 を負う

「強制できない」と「勧奨義務」のバランスをどう取るかが、現場の難しさの本質です。

1.2 「勧奨」の範囲

厚生労働省の指針が示す勧奨の例:

方法 適切性
結果通知書面で面談を案内 ◎ 必須
産業保健スタッフから個別連絡 ◎ 推奨
上司を介して声かけ △ 守秘義務に注意
人事評価に絡めて勧める ✗ 不利益取扱いに該当

重要なのは、勧奨が「圧力」にならない設計です。


2. 拒否されたときの 5 つのチェックポイント

2.1 そもそも本人に届いているか

最初に確認すべきは「結果通知が本人の手元に届いているか」。封書のみ・社内メールのみだと、未開封・見落としが頻発します。

  • 個別の結果は 本人専用画面でログイン確認できる仕組みが望ましい
  • 「未閲覧アラート」を産業保健担当に通知する仕組みがあれば理想

2.2 「面談 = 病気」というイメージを払拭できているか

高ストレス者の半数以上は「自分はそこまで深刻ではない」と感じています。面談を「コンディションの相談機会」と言い換えると申出率が上がります。

NG: 「面談を受けてください」 OK: 「30 分の対面・オンライン相談で、最近のお仕事の負荷感を整理してみませんか」

2.3 守秘の安心感を提供できているか

「結果が上司に伝わるのでは」という懸念が最大の障壁です。以下を書面で明示:

  • 面談記録は産業医のみが保管
  • 就業上の措置が必要な場合のみ、本人同意のもと最低限の情報を共有
  • 評価・配置・処遇には一切影響しない

2.4 アクセスのハードルが高くないか

  • 平日昼間しか面談枠がない
  • 産業医オフィスが遠い
  • 上司に「行ってきます」と告げる必要がある

これらは想像以上の障壁です。オンライン面談・社外場所・複数時間帯の用意で申出率が大きく変わります。

2.5 再アプローチの設計があるか

初回案内から 2 週間反応がない場合、再アプローチを 2 回まで設計するのが実務の定石です。3 回目以降は本人の意思を尊重し、別の支援チャネル(EAP・外部相談窓口など)を案内します。


3. 拒否時の声かけスクリプト例

3.1 産業保健スタッフからの再アプローチ(電話・チャット)

「先日のストレスチェックの結果を受けて、お声がけしています。面談は強制ではありませんが、最近の業務量や睡眠のリズムについて、産業医と 30 分話してみることもできます。会社の評価には一切影響しません。ご希望であれば、夜間枠やオンラインでの実施も可能です。」

3.2 上司には伝えないことを明確化

「この連絡があったこと、面談を受ける/受けないの選択、すべて上司の方には共有されません。ご安心ください。」

3.3 拒否されたあとのフォロー

「承知しました。気持ちが変わったとき、いつでも産業保健窓口にご連絡ください。代わりに、24 時間利用できる外部相談窓口の番号もお伝えしておきます。」

「相談窓口を案内する」「外部 EAP の選択肢を示す」までを 1 セットにすることで、本人が孤立しません。

3.4 案内できる公的な外部相談先

社内に EAP がない場合でも、無料で案内できる公的窓口があります。社名を明かさずに相談できることを添えると、本人の心理的ハードルが下がります。

  • 厚生労働省「こころの耳」: 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・SNS・メールの相談窓口があり、匿名で利用できます。
  • 産業保健総合支援センター(さんぽセンター): 各都道府県に設置。事業場・従業員双方が無料で相談可能。

「会社の産業医面談は受けたくないが、誰かに話は聞いてほしい」という層に対して、会社とは無関係のチャネルを提示することが、初期の孤立防止として機能します。


4. 就業上の措置との関係

4.1 面談がなければ「就業上の措置」もない

労働安全衛生法上、産業医による意見聴取は面談実施が前提です。本人が面談を申し出ない限り、会社が一方的に勤務制限・配置転換を行うのは適切ではありません。

ただし、以下のような 明らかな業務上の懸念兆候がある場合は別途対応が必要:

  • 遅刻・欠勤の急増
  • 業務ミスの増加
  • 周囲が認識する明らかな不調

これらは「ストレスチェック結果に基づく措置」ではなく、通常の労務管理として上司・人事が対応します。ストレスチェック結果と切り離して扱うことが、後のトラブル防止につながります。

具体的な対応の選択肢としては、以下が考えられます(いずれもストレスチェックを根拠にしないこと)。

  • 一般的な健康相談(ストレスチェックのフォローアップではなく、通常の健康管理としての産業医・保健師面談)の案内
  • チームの繁忙状況に基づく業務再配分(個人の健康状態ではなく、体制の問題として調整)
  • 就業規則に定める休職・配慮制度の一般手続きの適用

明らかな不調兆候が続く場合、事業者は通常の健康・安全管理義務として対応する必要があります。この対応を「ストレスチェックの結果を理由に始めた」形にしないことが、本人保護と事業者リスク回避の両面で重要です。

4.2 「上司に勧奨してもらう」ことの守秘リスク

現場では「上司から一声かけてもらえば申出につながるのでは」と考えがちですが、ここには見落としやすい落とし穴があります。

ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なく事業者(上司を含む)に提供してはならないのが原則です。つまり、上司が「あの人は高ストレスだった」と知った状態で面談を勧めること自体が、守秘義務に抵触する可能性があります。上司を勧奨に巻き込む場合は、次のいずれかを満たすかを確認してください。

  • 本人が、上司へ結果を伝えることに同意している
  • 上司はストレスチェック結果を知らず、日常のラインケア(業務量や様子の変化に気づいた声かけ)として関わっている

「高ストレスだから声をかけて」という依頼は前者の同意がない限り避け、後者の通常のマネジメントの範囲にとどめるのが安全です。

4.3 ラインケアの強化

本人が面談を拒否した場合でも、上司による日常のラインケア(声かけ・1on1・業務調整)は通常通り行います。ストレスチェック結果に基づく特別対応ではなく、全員に対する管理職としての関わりとして行うことが重要です。ここでも、上司の関わりは「ストレスチェックの結果を理由にしない」ことが分岐点になります。


5. 記録の残し方(監査対応)

5.1 残すべき記録

項目 保管者 期間
高ストレス判定者リスト 産業保健スタッフ 5 年
面談勧奨の通知履歴 産業保健スタッフ 5 年
面談実施記録 産業医 5 年
就業上の措置の意見書 人事 5 年

5.2 残さないほうがよい情報

  • 「誰が拒否したか」を人事評価記録に紐づけて残すこと
  • 上司への共有メモに「ストレスチェックで高ストレス」と記載すること

これらは不利益取扱いの根拠として労基署調査で問題になります。


6. 翌年のストレスチェック設計に反映する

「拒否が多い」「申出率が低い」という現象は、翌年の制度設計に反映すべき重要なシグナルです。

改善ループの 4 ステップ

  1. 申出率の集計: 部署別・年代別に申出率を見る
  2. 要因分析: 通知方法・面談枠の柔軟性・職場文化を仮説化
  3. 改善実装: オンライン枠追加・通知の言い換え・守秘説明の強化
  4. 翌年効果検証: 申出率の変化を測定

申出率を「衛生委員会の定例議題」として扱うと、形骸化を防げます。50 人以上の事業場では衛生委員会の設置が労働安全衛生法上の義務であり、申出率の年次推移を委員会で共有し、人事単独ではなく組織として構造的な改善を決める枠組みが有効です。

アクセス設計で検討したい選択肢

「守秘が守られるか不安」という障壁に対しては、通知の言葉だけでなく仕組みで分離を担保することが効きます。

  • 第三者機関による面談: 社内産業医との完全な切り離しを望む従業員向けに、外部の面談提供者を用意する
  • 匿名で予約できる導線: 上司に「なぜ席を外すのか」を説明せずに予約・受診できるフローにする
  • 平日昼以外の枠: 夜間・早朝・オンラインなど、業務時間中に席を外す必要のない選択肢を増やす

守秘や配慮の説明は、毎年平易な言葉で繰り返し伝えることも大切です。多くの従業員は自社の産業保健の運用ルールを一度も読んでいません。


7. COCKPITOS でできること

COCKPITOS のストレスチェックサービスでは、以下を標準で提供しています:

  • 本人のみが閲覧できるマイページ通知(既読確認付き)
  • 産業医オンライン面談の予約機能
  • 面談勧奨の通知履歴の自動記録
  • 集団分析による職場改善 PDCA 支援

また、本人が面談を申し出ない場合の補完として外部相談窓口のオプションも併用可能です。


よくある質問

Q. 面談を勧奨したのに拒否された場合、会社は勧奨義務を果たしたことになりますか?

勧奨は「実施したかどうか」よりも「記録で示せるか」が問われます。結果通知での案内、産業保健スタッフからの個別連絡、代替窓口の提示といった一連の働きかけを履歴として残しておけば、勧奨義務を尽くした裏づけになります。逆に、口頭のみで記録が残らないと、労基署調査の際に説明が難しくなります。

Q. 面談も外部相談も拒否した従業員が、その後に不調を悪化させた場合、会社は何もしなくてよいのですか?

いいえ。ストレスチェックの面談は本人の申出が前提ですが、会社には別枠で安全配慮義務があります。遅刻・欠勤や明らかな不調兆候が現れた場合は、ストレスチェック結果を根拠にするのではなく、通常の健康・労務管理(一般健康相談の案内、業務調整、休職制度など)として対応する必要があります。「面談を拒否されたから対応しなかった」は、安全配慮の観点では免責になりません。


まとめ

高ストレス者の面談拒否は「困った例外」ではなく、ストレスチェックの実務では多数派です。重要なのは:

  1. 強制せず、勧奨を丁寧に設計する
  2. 本人の心理的ハードル(評価不安・守秘不安・時間不安)を 1 つずつ取り除く
  3. 再アプローチを 2 回まで設計し、3 回目以降は外部窓口へバトンタッチ
  4. 記録は法令に沿って残しつつ、不利益取扱いの根拠にならない形で運用
  5. 申出率を年次でモニタリングし、翌年の制度に反映

形式的な実施から、本人に「相談してよかった」と思ってもらえる運用へ。1 年単位での改善ループが、職場全体のメンタルヘルスを底上げします。


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参考: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

✍️ この記事を書いた人

一木 信輔 | COCKPITOS株式会社 代表取締役CEO

社会保険労務士/精神保健福祉士・ストレスチェック実施者10年。各媒体で違う角度から発信しています。フォローはこちら:

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