2026年10月1日更新(訂正):「50人」の数え方(事業場の人数算定)と、ストレスチェックを実施すべき労働者(受検対象者)の要件を混同していた記載を、2段階に分けて訂正しました。あわせて、集団分析の人数の考え方、面接指導の手続、法令上の根拠の書き方を見直しました。
【結論・要点】 - ストレスチェックは現在、常時50人以上の事業場に年1回の実施が義務付けられている(労働安全衛生法第66条の10) - 2025年に労働安全衛生法が改正され、2028年4月1日から50人未満の事業場も実施義務の対象(努力義務から格上げ) - 「50人」は常態として使用する労働者の数で数える(短時間パートや派遣先の派遣労働者も含む)。誰に実施するか(受検対象者)は別の基準で判定する - 実施者は医師・保健師、または所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師(社労士資格だけでは実施者になれない) - 個人の結果は本人に通知され、本人の同意なく事業者へ提供されない
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このテーマをさらに深く(2028年義務化シリーズ) - 規模別の準備: 50人未満企業のストレスチェック完全ガイド - 現場の疑問: ストレスチェック義務化Q&A・50人未満事業所の疑問30問 - 初めての担当者向け: ストレスチェック導入ガイド・何をすべきか完全マニュアル - 委託先選び: 外部実施機関・サービスの選び方ガイド(4方式比較) - 改正の背景と準備の全体像: 2028年4月に全事業所へ拡大 ― 準備ガイド - 実施者の外部委託: ストレスチェックの実施者を外部委託するメリットと選び方 - 50人未満の開始時期: 50人未満事業所もストレスチェック義務化へ ― 2028年4月スタート確定 - 「意味がない」と感じたら: 「ストレスチェックは意味がない」は本当か ― 形骸化する5つの構造的原因 - 代行・委託の比較: ストレスチェック代行・委託サービスの比較と選び方 - 統合運用: 離職予防プラットフォーム統合運用ガイド
1. ストレスチェック義務化の現状と2028年改正
ストレスチェックは2028年4月1日から、50人未満の事業場も実施が義務化されます。
現行制度(2015年〜)
ストレスチェック制度は2015年12月に施行されました。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回以上のストレスチェック実施が義務付けられています。
| 事業場規模 | 現行の状況 | 2028年4月1日以降 |
|---|---|---|
| 常時50人以上 | 義務(2015年〜) | 義務(変更なし) |
| 50人未満 | 努力義務 | 義務(2025年改正・2028年4月1日施行) |
2025年改正の内容
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、ストレスチェックの実施義務が労働者数50人未満の事業場にも拡大されました(2028年4月1日施行)。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2015年12月 | ストレスチェック制度施行(50人以上義務化) |
| 2024年3月 | 改正方針を公表 |
| 2025年5月 | 改正労働安全衛生法 公布(50人未満への義務拡大) |
| 2028年4月1日 | 50人未満の事業場への義務化施行 |
なぜ全事業場に拡大するのか? 厚生労働省の統計によると、精神障害による労災認定件数は増加傾向にあり、2023年度に883件を記録(過去最多)。特に50人未満の小規模事業場では、産業医選任義務がなく、メンタルヘルス対策が不十分な状況が続いていました。
2. 義務化の対象:誰が対象になるか
対象の判定は、①事業場の人数算定(その事業場が「常時50人以上」か) と ②個々の労働者の受検対象判定(誰にストレスチェックを実施するか) の2段階に分かれます。両者は基準が異なるため、混同しないことが重要です。
事業場の単位
「50人以上」「50人未満」のカウントは、事業場単位で行います。
- 本社(50人)と支社(10人)は別々にカウント
- 本社は従来通り義務対象、支社は2028年4月1日から新たに義務対象
- 「事業場」は、場所的な独立性や業務の実態に照らして判断する事業の単位です
① 事業場の人数算定:常態として使用する労働者の数
「常時50人以上か」は、常態として使用している労働者の数で判断します。受検対象者のように、契約期間や週の労働時間で絞り込むことはしません。
| 区分 | 人数算定(①) |
|---|---|
| 正社員 | ✅ 含める |
| 契約社員・嘱託 | ✅ 含める |
| パート・アルバイト | ✅ 含める(週の労働時間にかかわらず、継続して雇用し常態として使用していれば含める。週1回勤務でも同じ) |
| 派遣労働者 | ✅ 派遣先の事業場でも含める(派遣元でも、自社が雇用する派遣労働者を含めて数える) |
| 役員・経営者 | ❌ 労働者に当たらない者は含めない |
2028年4月1日以降は50人未満の事業場も実施義務の対象になりますが、①の人数は、施行までの現行義務の判定や、労働基準監督署への報告義務(常時50人以上の事業者)の判定で引き続き重要です。
② 受検対象者の判定:誰にストレスチェックを実施するか
事業者がストレスチェックを実施すべき「常時使用する労働者」は、次の両方を満たす者です(定期健康診断の対象者と同じ考え方)。
- 契約期間:期間の定めのない労働契約で使用される者(期間の定めがあっても、契約期間が1年以上の者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者を含む)
- 労働時間:1週間の労働時間数が、その事業場で同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上
①の要件を満たし、1週間の労働時間数が通常の労働者の概ね2分の1以上である短時間労働者にも、実施することが望ましいとされています。契約の名称や国籍は問いません。
なお派遣労働者へのストレスチェックの実施義務は「派遣元」にあります。派遣先は、派遣労働者を①の人数には含めますが、②の実施義務は負いません(派遣先でも派遣労働者に実施し、集団分析に含めることが望ましいとされています)。
例:正社員40人+週3日勤務のパート15人の事業場は、①では55人=「常時50人以上」です。一方、②の受検対象(実施義務の対象者)は、正社員40人と要件を満たすパートに限られます。
ストレスチェックの受検義務
労働者本人にストレスチェックの受検義務はありません。定期健康診断は受診義務がありますが、ストレスチェックは「受検の機会を提供する」ことが事業者の義務であり、受検は任意です。受検しないことを理由とした不利益な取扱いは実施指針で禁止されています。
ただし、受検しないと集団分析の精度が下がり、職場環境改善に活かせなくなります。受検率向上のための事前周知が重要です。
3. 実施体制:誰が何を行うか
実施者・実施事務担当者・衛生委員会の役割分担の詳細はストレスチェックの実施体制の整え方で解説しています。
実施者の要件(重要)
ストレスチェックを実施できる「実施者」には、資格要件があります(労働安全衛生規則第52条の10)。
実施者になれる者: - 医師(産業医を含む) - 保健師 - 所定の研修を修了した看護師 - 所定の研修を修了した精神保健福祉士 - 所定の研修を修了した公認心理師 - 所定の研修を修了した歯科医師
⚠️ 社会保険労務士の資格だけでは実施者になれません。 社会保険労務士は、ストレスチェック制度の運用支援・集団分析の活用アドバイス・実施機関との連携窓口として機能できます。実施者の役割(調査票の選定や高ストレス者の選定基準について事業者に意見を述べる、高ストレス者を選定し面接指導の要否を判断する、結果を本人に通知する等)は、上記の資格要件を満たす者が担います。社労士が上記の資格・研修要件も満たしている場合は、その資格に基づいて実施者になることができます。
役割分担の全体像
| 役割 | 担当者 | 要件 |
|---|---|---|
| 実施者 | 医師・保健師等 | 資格要件あり |
| 実施事務従事者 | 人事・総務担当者など | 資格不要。ただし、受検者の解雇・昇進・異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は従事できない |
| 衛生委員会(50人以上) | 既存の委員会 | 実施方法等を調査審議 |
| 事業者(会社) | 経営者・代表者 | 実施義務の主体 |
50人未満事業場の実施者確保
産業医選任義務がない50人未満の事業場では、以下の方法で実施者を確保します。
- 外部ストレスチェック実施機関: 実施者(医師・保健師等)を含めてサービスを提供する機関・サービスに委託する
- 医師・保健師等との個別契約: 近隣の医師(嘱託産業医を含む)や保健師、研修を修了した有資格者と契約する
地域産業保健センター(さんぽセンター)はストレスチェック自体は実施していません。 小規模事業場向けの相談支援のほか、ストレスチェックの結果に基づく医師の面接指導を、依頼に応じて無料で実施できる機関です(利用条件・予約状況は所在地のセンターに確認してください)。面接指導の依頼先として活用します。
なお厚労省マニュアルでは、50人未満の事業場はプライバシー保護の観点から外部委託が推奨されています。自社実施では、個人結果を扱う実施事務従事者の選任・厳格な情報管理などの負担とリスクが大きくなるためです。社内には委託先との連絡調整を担う実務担当者を1名決めれば足ります。
実施の前に整える3つのこと(小規模事業場マニュアル)
厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」は、実施そのものより前に社内の土台づくりを行うよう示しています。50人未満の事業場には衛生委員会の設置義務がないため、この3つが衛生委員会での審議に代わる手続きになります。
| # | やること | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 事業者による方針の表明 | 経営トップが導入方針を従業員に表明します。「目的は不調の未然防止であり、不調者の発見ではない」「プライバシーを守って運用する」の2点を明確に伝えるのがポイントです。 |
| 2 | 関係労働者の意見の聴取 | 実施体制・実施方法について従業員の意見を聴きます。会議体をつくる必要はありません。朝礼や定例ミーティングの場を活用する、ルール案を掲示して意見を募る、といった方法でも構いません。 |
| 3 | 社内ルールの作成・周知 | 意見を踏まえて社内ルールを定め、掲示や配付で全員に周知します。 |
社内ルールに定める6項目
- 実施体制(誰が実施者・実施事務従事者か)
- 実施方法(調査票・受検方法・実施時期)
- 記録の保存(誰が・どこに・何年間)
- 情報管理(結果を取り扱える者の範囲)
- 情報の開示・苦情処理(本人からの請求への対応)
- 不利益取扱いの防止
厚労省マニュアルには、方針表明メッセージや実施規程のモデル例が掲載されています。自社の実情にあわせてアレンジして使えます。社内規程の記載例・衛生委員会での審議の進め方はストレスチェック社内規程の作り方で詳しく解説しています。
4. 実施の流れ(6ステップ)
Step 1: 計画策定と体制整備(実施3ヶ月前まで)
- 実施者の確保(外部委託先の選定)
- 実施事務従事者の選任
- 受検対象者の確定(前述②の要件で名簿を作成)
- 実施方針の決定(50人以上は衛生委員会で調査審議/50人未満は上記「実施の前に整える3つのこと」で代替)
- 使用する調査票の選択(国が標準として示す57項目版の利用が推奨。80項目版・23項目の簡略版もある。独自の調査票は「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域を含むことが必要)
Step 2: 従業員への周知(実施1ヶ月前まで)
周知の際に必ず伝える事項: - ストレスチェックの目的(自分のストレス状態を把握するため) - 個人の結果の取扱い(本人の同意なく会社に提供されないこと) - 不利益取扱いの禁止(受検しないこと、結果の提供に同意しないこと等を理由に不利益な扱いをしないこと)
この周知が受検率向上に直結します。
Step 3: ストレスチェック実施(受検期間2〜4週間)
- 調査票の配布・回答(Web・紙のいずれも可)
- 実施者が質問項目・高ストレス者の選定基準について意見を述べ、事業者が決定
- 受検期間中の回答率モニタリングとリマインド
Step 4: 結果の通知(実施完了後、遅滞なく)
⚠️ 個人の結果は実施者から本人に直接通知します。 個人の結果は、本人の同意がない限り、実施者から事業者へ提供されません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。同意の取得は結果の通知後に、書面または電磁的記録で行います。
高ストレスで、実施者が面接指導を要すると認めた従業員には、医師による面接指導を申し出られることと申出の方法を通知します。
Step 5: 高ストレス者への面接指導
高ストレスで実施者が面接指導を要すると認めた従業員が自ら申し出た場合、事業者は医師による面接指導を遅滞なく実施する義務があります(強制はできません)。法定の面接指導は事業者が実施するものであり、費用は事業者が負担します。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 申出 | 本人から事業者へ(委託先の外部窓口を経由する方法も可)。申出があると、事業者は面接指導の要件を確認するため本人の結果を把握することになります。申出を理由とする不利益取扱いは法律(第66条の10第3項)で禁止されています。 |
| 面接指導 | 医師が実施。申出から概ね1か月以内に、プライバシーに配慮した場所で。一定の要件のもとでオンライン実施も可能です。 |
| 意見聴取 | 面接指導の後、遅滞なく(概ね1か月以内)、医師から就業上の措置について意見を聴取。「通常勤務/就業制限/要休業」の区分と措置内容が示されます。 |
| 措置・記録 | 医師の意見を勘案し、本人の意見を聴いて十分に話し合ったうえで、必要な就業上の措置を実施。事業者は面接指導結果の記録を作成し5年間保存します。 |
50人未満なら「地域産業保健センター(地産保)」を利用できる場合があります。 厚労省所管の支援機関で、ストレスチェックの結果に基づく医師の面接指導を、依頼に応じて無料で実施できます(※地産保はストレスチェック自体は実施していません。利用条件は各センターに確認してください)。
面接指導を受けない選択をした方にも、厚労省の無料相談窓口「こころの耳」(電話・SNS・メール)などを案内することが望まれます。社内・外部の相談窓口の設計は職場メンタルヘルス相談窓口の設計と運用で詳しく解説しています。
Step 6: 集団分析と職場環境改善
職場の集団ごとに集計・分析し、組織的な傾向を把握します。集団分析は努力義務ですが、ストレスチェックの最大の活用価値がここにあります。分析単位の人数は、部署の在籍者数ではなく分析対象となる受検者数で確認します。原則として10人以上の単位で行います(詳しくは後述の「集団分析の人数の考え方」)。
5. 高ストレス者の判定基準
COCKPITOSの判定は、厚生労働省マニュアルの設定例に基づく素点換算表方式です。
- 条件㋐: 心身のストレス反応(6尺度)の合計が一定点数以下
- 条件㋑: 心身のストレス反応が一定点数以下 かつ ストレス要因+サポートが一定点数以下
条件㋐または㋑のいずれかに該当する場合に高ストレス者と判定されます。数値基準による判定は自動で行えますが、面接指導が必要かどうかは改めて実施者が判断します。
注意: 誰が高ストレスかという個人の情報は、本人の同意がない限り事業者に提供されません。事業者が把握するのは、本人が結果の提供に同意した場合、本人が面接指導を申し出た場合、面接指導の結果・医師の意見、個人が特定されない方法で集計された集団分析の結果などに限られます。
6. 罰則・法的リスク
未実施の場合のリスク
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 労基署の是正勧告 | ストレスチェック未実施は是正勧告の対象 |
| 安全配慮義務違反(民事) | 従業員がメンタル不調を発症した場合、未実施を理由に損害賠償請求のリスク |
| 報告義務違反(50人以上) | 「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」未提出は50万円以下の罰金 |
実施済みでも注意が必要なケース
- 個人結果を本人同意なく事業者に提供した場合 → 法令違反(第66条の10第2項)
- 高ストレスを理由に解雇・配置転換等の不利益取扱いをした場合 → 実施指針で禁止(法律が直接禁止するのは面接指導の申出を理由とする不利益取扱い=第3項)
- 資格要件を満たさない者を実施者とした場合 → 法定のストレスチェックとして適法に実施したことにならない
会社が知ってよい情報・知れない情報
個人のストレスチェック結果は「要配慮個人情報」にあたる機微な健康情報です。実施の事務に携わる者には罰則付きの守秘義務が課されています。
| 本人の同意なく取得できる | 本人の同意がない限り取得できない |
|---|---|
| 面接指導の申出の有無(申出時は面接指導の要件確認に必要な範囲の結果を含む)/面接指導結果/医師の意見 | 個人のストレスチェック結果(原則、入手すべきではありません) |
医師からの報告も必要最小限に限られます。診断名や検査値などの詳細な医学情報の提供を求めてはいけません。
禁止されている不利益取扱いの例
- 受検しないこと・結果提供に同意しないこと・面接指導を申し出ないことを理由とする不利益取扱い
- 面接指導の結果を理由とする解雇・雇止め・退職勧奨・不当な配置転換や職位の変更
- 医師の意見と著しく異なる内容の措置や、法令上の手順を踏まない措置
安心して正直に答えられること自体が、制度の効果の前提です。
7. 50人未満事業場の準備ロードマップ
今すぐやること(2026〜2027年)
- 全事業場の人数を確認する(本社・支社・工場ごとに。前述①の人数算定)
- 受検対象者の名簿を整える(前述②の要件。派遣労働者は派遣元が実施)
- 実施機関の選定(外部委託が一般的)と見積取得
- 担当者の選任(実施事務従事者=人事・総務担当者。人事権を持つ監督的地位にある者は除く)
2027年中にやること
- 従業員への事前説明(目的・個人結果の取扱い・不利益取扱い禁止)
- 実施方法の確定(Web・紙)
- パイロット実施(2028年4月の本番前に試行する余裕があれば)
委託先を選ぶときの確認ポイント(厚労省マニュアル)
見積を比べる前に、次の5点が明確になっているかを確認します。
- 実施体制 — 実施者は必要な資格を持っているか
- 実施方法 — 調査票(57項目推奨)、紙/Webの選択肢、高ストレス者選定方法の妥当性
- 料金体系 — どこまでが標準サービスで、何がオプションか明確か
- 面接指導 — 依頼先の選択肢(地域産業保健センターの案内を含む)が示されているか
- 情報管理 — 個人情報保護の体制、結果の保存方法・セキュリティ
2028年4月の本番に向けた直前確認
- [ ] 実施者が確保されているか
- [ ] 受検対象者(②の要件)を確定したか
- [ ] 従業員への周知が完了しているか
- [ ] 回答から結果通知までの流れが決まっているか
- [ ] 面接指導を要すると認められた者が申し出た場合の医師が確保されているか
- [ ] 結果・面接指導記録の5年間保存体制が整っているか
8. 集団分析の活用法
なぜ集団分析が重要か
ストレスチェックの個人結果は本人の同意なく事業者に提供されませんが、個人が特定されない方法で集計された集団分析(部署・職種別の集計)は事業者が活用できます。集団分析こそがストレスチェックの組織的活用の核心です。
集団分析でわかること
- 部署ごとの「仕事の量的負担」スコア → 残業が多い部署の発見
- 部署ごとの「上司のサポート」スコア → マネジメント課題の発見
- 部署ごとの高ストレス者比率 → 職場環境改善が急がれる部署の特定
集団分析と個人データの扱い
⚠️ 個人のストレスチェック結果を、離職予測や人事上の判断の材料にしてはいけません(本人の同意なく事業者に提供されない仕組み〔第66条の10第2項〕と、実施指針の不利益取扱い禁止の趣旨)。
ストレスチェックの集団分析は「部署ごとの職場環境の問題」を把握するための手段として位置付けます。日常の職場の状態把握には、匿名・部署単位のパルスサーベイや1on1での対話を、ストレスチェックの個人結果とは結び付けずに併用します。
厚労省マニュアルに載っている職場改善の実例
集団分析は「数値を見る」だけでは終わりません。厚生労働省のマニュアルには、数値が高かった集団の現場を実際に見に行って改善した例が掲載されています。
| 見つかった要因 | 現場 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 暑さがストレス要因だった | 採石業・約25名 | 「職場環境によるストレス」の数値が高い年に現場を確認したところ、夏場の高温が負担と判明。スポットクーラーを新設。 |
| 上司が多忙で相談できなかった | 製造業 | 上司のサポート得点が低い職場に、権限を持つサブリーダーを設置。2年後、高ストレス者の割合も病欠日数も減少。 |
| 同僚同士の連携が弱かった | 開発部門・26名 | 従業員参加型の2時間の話し合いから「情報共有ホワイトボード」「情報交換会」を実行。職場の一体感のスコアが上昇。 |
大がかりな投資でなくても、できることから。まず「数値が高い集団の現場を見に行く」ことが第一歩です。
なお集団分析の結果も、経年変化の把握のため5年間保存することが望まれます。
集団分析の人数の考え方(10人未満の場合)
- 人数は部署の在籍者数ではなく、分析対象となる受検者数で確認します。
- 実施指針は、集計・分析の単位が10人を下回る場合、個人が特定されるおそれがあるため、対象となる全員の同意がない限り、実施者は結果を事業者に提供してはならないとしています。ただし、個人が特定されるおそれのない方法(例:57項目の合計点の集団平均、「仕事のストレス判定図」)で集計・分析した場合はこの限りではありません(手法と集団の規模は衛生委員会等で事前に調査審議します)。
- その場合でも、極端に少人数の集団では個人の特定につながるため不適切です。
- 2027年4月1日施行の改正省令(令和8年厚生労働省令第112号)は、集団分析を「特定の個人を識別することができない方法」で行うことを明文化したもので、従来の運用を変えるものではありません。集団分析は引き続き努力義務です。
10人を下回る場合の工夫:
- 複数部署を合算して、より大きな分析単位を構成する
- 職種別・年代別など別の軸で分析する(その軸でも人数を確認する)
- 全社集計のみで活用する
9. コスト:安く実施するには
方式別コスト比較
| 実施方式 | 1人あたり費用 | 工数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| SaaS型(Web) | 1,500〜3,000円 | 小 | 自動集計・集団分析 |
| 紙ベース | 700〜1,400円 | 大 | 配布・回収・入力・保管すべて手作業 |
| 産業医委託型 | 5,000〜15,000円 | 小 | 産業医が一貫対応、個別対応が厚い |
30人規模の企業の年間コスト例: - SaaS型: 45,000〜90,000円 - 紙ベース: 21,000〜42,000円(人件費除く)
紙ベースは費用が安く見えますが、集計・入力・保管の人件費を含めると実質コストがSaaS型と同等以上になるケースもあります。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. ストレスチェックの義務化はいつから?
A: 現在は常時50人以上の事業場に義務(2015年〜)。2025年改正により、2028年4月1日から50人未満の事業場にも義務化が拡大されます。
Q2. 50人未満の会社も必ず実施しないといけませんか?
A: 2028年4月1日以降は義務となります。それ以前は努力義務です。実施対象とする労働者は、前述②の要件(契約期間・週の労働時間)で判定します。
Q3. 社労士に実施を依頼できますか?
A: 社会保険労務士の資格だけでは実施者になれません(実施者は医師・保健師、または所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師)。実施機関との連携・制度運用の相談・集団分析の活用支援は社労士が担えます。サービスの提供事業者と、実施者として責任を負う資格者は分けて確認してください。
Q4. 従業員が受けたくないと言ったらどうする?
A: 受検は任意です(義務はありません)。受検を強制することはできませんが、「本人の同意なく結果が会社に提供されることはない」「受検しないことを理由に不利益な扱いはしない」と丁寧に説明し、任意の参加を促してください。
Q5. 個人の高ストレス結果を人事評価に使えますか?
A: 使いません。個人結果は本人の同意なく事業者に提供されない仕組みであり(労働安全衛生法第66条の10第2項)、ストレスチェックの結果のみを理由とした不利益な取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇・不当な配置転換等の不利益取扱いは実施指針で禁止されています(面接指導の申出を理由とする不利益取扱いの禁止は同条第3項です)。
Q6. 集団分析は10人未満の部署でもできますか?
A: 実施指針では、10人を下回る集団の集計結果は、対象者全員の同意がない限り事業者に提供しないこととされています。ただし、合計点の集団平均など個人が特定されるおそれのない方法であれば、10人未満でも分析は可能です(極端に少人数の場合は不適切)。人数は受検者数で確認し、複数部署の合算や全社集計も検討してください。
Q7. ストレスチェックの結果はどれくらい保管する?
A: 本人の同意を得て事業者が結果の提供を受けた場合、事業者はその記録を作成して5年間保存しなければなりません(労働安全衛生規則第52条の13第2項)。それ以外の結果は実施者等が保存し、事業者はその保存が適切に行われるよう措置を講じる義務があります(同第52条の11。保存期間は実施指針で5年間が望ましいとされています)。面接指導結果の記録も事業者が5年間保存します(同第52条の18)。
11. 一次情報・参考法令
- 厚生労働省 ストレスチェック制度について(50人未満事業場への拡大を含む)
- 厚生労働省 ストレスチェック制度Q&A(Q0-12:50人のカウント/Q18-1:派遣労働者/Q15-1:集団分析)
- 神奈川労働局 ストレスチェック制度の解説資料(人数算定と実施対象者の整理)
- 厚生労働省 ストレスチェックの「集団分析」を適切に実施しましょう(2026年7月)
- 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(本記事の「実施の前に整える3つのこと」「委託先を選ぶときの確認ポイント」「職場改善の実例」はこのマニュアルに基づいています)
- 労働安全衛生法 第66条の10(ストレスチェック等)
- 労働安全衛生規則 第52条の9〜52条の21
- 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(実施指針)
まとめ
ストレスチェック義務化のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在の対象 | 常時50人以上の事業場 |
| 2028年4月1日以降の対象 | 50人未満の事業場を含む全事業場 |
| 施行根拠 | 2025年労働安全衛生法改正 |
| 人数算定と受検対象 | 人数は常態として使用する労働者で算定(短時間パート・派遣先の派遣労働者を含む)。受検対象は契約期間と週の労働時間(通常の労働者の4分の3以上)で判定 |
| 実施頻度 | 年1回以上 |
| 実施者要件 | 医師・保健師、所定研修修了の歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師(社労士資格だけでは不可) |
| 個人結果の取扱い | 本人に通知。本人の同意なく事業者に提供されない |
| 集団分析 | 努力義務。原則10人以上(受検者数)。10人未満は個人が特定されない方法に限る |
| 保管期間 | 5年間 |
2028年4月施行に向けて、体制整備・実施機関の選定・従業員への周知には最低3〜6ヶ月かかります。早期準備が安定した義務化対応の鍵です。
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